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2007年11月14日 (水)

You Must Believe in Spring

妻は仕える。兄弟は相続する。
金儲けの秘訣 ・第139条)




ピアノトリオ、といってぼくが最初に思い出すのは、
チェコのスークトリオだ。
ヴァイオリンのヨゼフ・スーク、ピアノのヤン・パネンカ、
チェロのヨゼフ・フッフロからなる三重奏団で、
3人が3人、ソリストとしても立派な演奏家でありながら、
長くトリオとして活躍してきた。

かれらの演奏に初めて触れたのは、チャイコフスキーの
ピアノ三重奏曲「偉大な演奏家の思い出のために」で、
当時の偉大なピアニスト、ニコライ・ルービンステインの死
に際して、チャイコフスキーが作曲したこの曲を、
若いころ、ぼくはカセットテープでよく聴いていた。
最近は、日本で録音されたデジタル録音初期の、
デンオン盤のCDを手に入れて、たまに聴いたりしている。

しかしながら、今一番愛聴している、ピアノトリオは、
実は、かれらではない。
ビル・エバンスが率いるトリオこそ、
今のマイファヴァリットなのである。

とくに、寝床に置いている、BOSEとiPodは、
ここんとこかれのなにがしかの作品しか再生していない。
エバンスのCDを聴きながら眠る日々が続いているわけだ。

だが今まで、ぼくはさほど熱心にビル・エバンスの音楽に
親しんできたわけではなかった。
最近偶然買った、かれらの晩年の作品である、
You Must Believe in Spring
というアルバムを手に入れてから、
かれのCDを熱心に聴くようになった。

しかしながらこのアルバムは、ビル・エバンスの作品のなかで、
必ずしも、ベスト中のベスト、とされるものではないようだ。

1961年に事故で急逝した、ベースのスコット・ラファロが
メンバーとして存在していた、非常に短い期間の作品の評価が、
JAZZに通じた人たちの間では、もっとも高いようで、
かれのトリオは、そのころの数少ない作品が、
音楽的にはもっとも優れている、といわれているらしい。

You Must Believe in Spring、というCDは、
この作品について書かれたものを読むと、
エバンスの状況が、非常に悪い時期に録音されたもののようで、
かれのもとを去った妻の自殺、そして、実の兄の自殺、
といった不幸な事件が続いたのちに演奏されており、
このCDのうちの2曲は、亡くなったかれらに捧げられた曲だ、
ということだ。

実際、兄のための曲は、「われわれはまた出会うだろう
というタイトルだし、
エバンス自身は、麻薬に重篤に依存する日々が続き、
最後の曲の副題には、痛みのない自殺
という副題までついていて、
当時のかれの心象風景が慮られる。

だが、このアルバムの演奏はみな驚くほど美しい
まさにエバンスの、白鳥のうた、ともいえるような作品群で、
どういう経緯なのかは知らないけれど、
かれが亡くなる3年前には録音が完了していたにもかかわらず、
実際に発売されたのはかれの死の翌年だったのんだ。

ぼくは生きているあいだにこのアルバムに出会えたことを
今幸せに思っている。

おまえは春をよいものだ、と信じなくてはならない
とでも、タイトル曲は、訳すのだろうか。
なんらかのメッセージ性がありそうな、なさそうな、
意味深な題名ではあるけれど、
このアルバムを聴いていると、
そんなもろもろのことがらは、もはやどうでもいいことで、
叙情的な音楽としてのある種の極みが、
そこに存在しているだけだ、
という思いを強くするのである。

そんな音を、そんな演奏を、耳にしてみたい、と思われる方は、
一度、聴いてみられるがよいよ、とお勧めする次第だ。


You_must_believe_in_spring








"You Must Believe in Spring"

1 B Minor Waltz (For Ellaine) 
2 You Must Believe In Spring 
3 Gary's Theme 
4 We Will Meet Again (For Harry) 
5 Peacocks 
6 Sometime Ago 
7 Theme From M.A.S.H. (Suicide Is Painless) 
(以下はボーナストラック)
8 Without A Song 
9 Freddie Freeloader   
10 All Of You 




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